『大家さんと僕』|損得の外側にある「住まいと人」を思い出す漫画
家の情報収集を続けていると、頭の中が金利・資産価値・損得でいっぱいになってきます。そんなときに読んでほしいのが、お笑い芸人・カラテカ矢部太郎さんが描いた漫画『大家さんと僕』(新潮社)。1階に大家さん、2階に矢部さんが暮らす一軒家での、なんてことのない日常を描いたエッセイ漫画です。
「お帰りなさいませ」と出迎えてくれる上品な大家さんと、恐縮しつつもだんだん距離が縮まっていく矢部さん。戦争を生き抜いた大家さんの人生の話、お茶やおやつの時間、ちょっとしたすれ違い——派手な事件はひとつも起きないのに、読み終わると住まいの見え方が少し変わっています。本作は第22回手塚治虫文化賞短編賞を受賞し、シリーズ累計140万部を超えるヒットになりました(新潮社の発表より)。
このコラムで扱う他の本と違い、知識はほぼ身につきません。それでも「家を買う前に読みたい1冊」として紹介する理由を書きます。
住まいは「物件」である前に、人との関係である
スペックと価格で物件を比較していると忘れがちですが、住まいの満足度を最後に決めるのは、隣人・大家さん・管理人さん・街の人といった人との関係だったりします。『大家さんと僕』は、家賃や間取りの話を一切せずに、そのことを思い出させてくれます。
賃貸で大家さんとの距離感に悩んだことのある人、これから買う家のご近所付き合いが気になる人には、「こういう関係が築けたら住まいは幸せだ」という一つの理想形として響くはずです。効率だけを求めた家選びで削ぎ落とされるものが何なのか、ページをめくりながら考えさせられます。
実利的な話をひとつだけ:中古住宅やマンションの内見では、売主や近隣の雰囲気・管理人さんの働きぶりも重要なチェックポイントです。「人を見る」視点は、実は物件選びの実務スキルでもあります。
情報疲れのクールダウンに——読む「休憩」も家探しのうち
家探しは長期戦です。相場を追い、記事を読み、シミュレーターを回し、週末は内見——数ヶ月も続けると、確実に情報疲れがやってきます。疲れた状態での意思決定は雑になりがちで、「もうここでいいや」と決めた家がいちばん高い買い物になる、という笑えない結末もありえます。
『大家さんと僕』は30分もあれば読めて、読後は不思議と肩の力が抜けています。損得の勉強を頑張った週末の夜に、クールダウンとしてどうぞ。落ち着いたらまた、自分の数字と条件に戻ってくればいいのです。
よくある質問
- 家探しの実用知識は学べますか?
- ほぼ学べません。本作はエッセイ漫画で、契約やお金の解説は出てきません。その代わり、住まいの満足度を左右する「人との関係」という視点と、情報疲れからの回復という、実用書では得られないものをくれます。知識のインプットは他の本やサイトの記事に任せて、これは休憩として読んでください。
- どんな人に特におすすめですか?
- 物件情報の比較検討に疲れてきた人、賃貸で大家さんや近隣との関係に悩んだことがある人、家探しを一緒に進める家族と温度差を感じている人におすすめです。30分程度で読めるので、読書が苦手な人や忙しい人でも負担になりません。
- 続編はありますか?
- あります。続編『大家さんと僕 これから』(新潮社)で物語は完結します。2冊あわせても数時間で読める分量なので、1冊目が気に入ったら続けてどうぞ。