繰り上げ返済と贈与税:親や配偶者のお金で返すと課税される?110万円の壁と対策

この記事の要点

  • 個人からの贈与は110万円(基礎控除)を超えると贈与税の対象。親のお金や配偶者のお金で自分名義のローンを繰り上げ返済すると、この「贈与」に当たり得ます
  • 住宅取得等資金の非課税(最大1,000万円)は繰り上げ返済には使えません。対象は取得時の対価に充てる資金だけです(おしどり贈与も同様に対象外)
  • 対策は、110万円以内に収める貸付として契約書を作る相続時精算課税を検討するそもそも自分の資金で自分のローンを返す、の4つが基本です

「親が退職金でローンを返してあげると言ってくれた」「夫婦の貯金から妻名義のローンをまとめて繰り上げたい」——よくある場面ですが、ここには贈与税の落とし穴があります。個人から個人への贈与は、年110万円の基礎控除を超えると贈与税の対象になり、住宅ローンの返済資金も例外ではありません。

紛らわしいのは、住宅購入のときには親からの資金援助を非課税にできる制度(住宅取得等資金の贈与の非課税)があることです。「買うときは1,000万円まで非課税だったのだから、返すときも大丈夫だろう」と考えてしまいがちですが、この制度は取得の対価に充てる資金だけが対象で、繰り上げ返済への充当は対象外です。

この記事では、繰り上げ返済で贈与税が問題になる典型パターンと、課税されないための実務的な対策を整理します。繰り上げ返済そのものの損得は繰り上げ返済シミュレーターで計算できます。

結論: 「誰のお金で、誰のローンを返すか」のズレが贈与になる

贈与税の考え方はシンプルで、「ローンの名義人以外のお金で返済した分」が贈与とみなされ得ます。自分のローンを自分の収入・貯蓄で繰り上げる分には、金額がいくらでも贈与の問題は起きません。

問題になるのは、①親や祖父母の資金で子のローンを返す、②配偶者の資金(または実質的に配偶者が貯めたお金)でもう一方の名義のローンを返す、の2パターンです。年間の贈与額(他の贈与との合計)が基礎控除110万円を超えると、超えた分に贈与税がかかります。

たとえば親から300万円をもらって繰り上げ返済に充てると、課税価格は300万−110万=190万円。直系尊属からの贈与に適用される特例税率では贈与税は約19万円です(概算・他に贈与がない場合)。金額が大きくなるほど税率も上がります。

  • !!warn 贈与税は「もらった側」が翌年2月1日〜3月15日に申告・納税します。銀行口座の資金移動は記録が残るため、「ばれないだろう」を前提にした計画は立てないでください

「住宅取得等資金の非課税」は繰り上げ返済に使えない

親や祖父母からの住宅資金援助を非課税にできる「直系尊属からの住宅取得等資金の贈与の非課税」(省エネ等住宅1,000万円・その他500万円、令和8年12月31日までの贈与が対象)は、対象が「住宅の新築・取得・増改築等の対価に充てるための金銭」に限定されています。

つまり使えるのは購入時(支払い前)だけで、すでに借りた住宅ローンの返済に充てる資金は対象外です。国税庁もこのケースを明示しており、「取得後に親からもらってローンを返す」は通常の贈与として扱われます。援助を受けられるなら、繰り上げ返済ではなく購入時の頭金として受けるのが税務上は圧倒的に有利です。制度の詳細は住宅取得資金の贈与の記事で解説しています。

同じ「親からの住宅資金援助」でもタイミングで扱いが変わる
タイミング使える制度非課税枠(概算)
購入時(対価の支払いに充てる)住宅取得等資金の非課税+基礎控除最大**1,000万円+110万円**(省エネ等住宅・要申告)
購入後(繰り上げ返済に充てる)基礎控除のみ**年110万円**(超過分は課税)
購入後(相続時精算課税を選択)相続時精算課税特別控除2,500万円+年110万円(相続時に持ち戻し)

夫婦間も他人ではない: 共働きのお金の動きが贈与になるケース

夫婦の間でも贈与税は課税されます。生活費や教育費として通常必要な範囲のやりとりは非課税ですが、一方の名義のローンをもう一方のまとまった資金で繰り上げ返済するのは「通常の生活費」ではなく、贈与とみなされ得ます。

紛らわしいのが婚姻期間20年以上の夫婦に認められる配偶者控除(いわゆるおしどり贈与・最高2,000万円)です。これも対象は居住用不動産そのものか、その取得のための金銭に限られ、住宅ローンの返済資金は対象外です。

ペアローンや共有名義の場合は、持分・ローン負担の割合と実際にお金を出す人がズレないように管理するのが基本です。共通口座から返済している家庭は、それぞれの拠出割合を説明できるようにしておきましょう。どちらのローンを繰り上げるかの損得はペアローンの繰り上げ返済の順番の記事で整理しています。

  • !!info 夫婦共有の財布から双方が納得して生活している実態まで直ちに課税されるわけではありません。問題になりやすいのは「まとまった額が一方向に動き、名義と負担が明確にズレる」ケースです。判断に迷う金額なら税務署(電話相談)や税理士に事前確認を

贈与にしないための4つの対策

親や配偶者の資金を活かしつつ贈与税を避けたい場合、実務的な選択肢は次の4つです。

  • ① 年110万円以内に分ける — 基礎控除の範囲内なら申告も納税も不要です。ただし「毎年◯万円を10年間あげる」と最初に約束すると、約束した総額に対する定期金の贈与とみなされることがあるため、毎年その都度贈与する形にします
  • ② 贈与ではなく「貸付」として整理する — 金銭消費貸借契約書を作り、無理のない返済条件と利息を定め、実際に返済の記録を残します。形だけの契約書で返済実態がないと贈与と認定され得ます
  • ③ 相続時精算課税を検討する60歳以上の父母・祖父母からの贈与なら、累計2,500万円の特別控除+年110万円の基礎控除まで贈与時の税負担なしにできます(使途の制限なし)。ただし財産は相続時に持ち戻して精算され、一度選ぶとその贈与者からの贈与は暦年課税に戻せません
  • ④ そもそも自分の資金で自分のローンを返す — ペアローン・共有名義なら、各自のローンは各自の口座から繰り上げるのが最も安全です
  • !!alert 本記事は一般的な制度の解説です。適用可否は個別の事情で変わるため、まとまった金額を動かす前に税理士または税務署に確認してください

繰り上げ返済の前にチェックすること

贈与の問題をクリアしても、繰り上げ返済そのものの損得は別問題です。住宅ローン控除の期間中は繰り上げで控除が目減りし、低金利のローンでは正味の効果が小さくなることがあります。また、繰り上げた資金は戻せないため、生活防衛資金の確保が先です。

「いくら得になるか」は、控除の目減り・手数料まで含めて繰り上げ返済シミュレーターで確認できます。繰り上げを急がない方がよい条件は繰り上げ返済はしない方がいい?の記事にまとめています。

よくある質問

親のお金で住宅ローンを繰り上げ返済すると贈与税がかかりますか?
その年の贈与の合計が基礎控除110万円を超えるとかかり得ます。住宅購入時に使える「住宅取得等資金の贈与の非課税」(省エネ等住宅で最大1,000万円)は、取得の対価に充てる資金だけが対象で、繰り上げ返済への充当は対象外です。110万円以内に分ける、貸付として契約書を作る、相続時精算課税を選択するなどの方法を検討してください。
夫婦の間でも贈与税はかかりますか?
かかり得ます。生活費など通常必要な範囲のやりとりは非課税ですが、一方の名義のローンをもう一方のまとまった資金で返すのは贈与とみなされることがあります。婚姻20年以上のおしどり贈与(最高2,000万円)も対象は居住用不動産とその取得資金のみで、ローン返済資金は対象外です。各自のローンは各自の資金で返すのが基本です。
110万円以内なら毎年繰り上げ返済の資金をもらっても大丈夫ですか?
毎年その都度の贈与として行うなら、基礎控除の範囲内で申告も不要です。ただし「総額◯◯万円を毎年分割で渡す」と最初に約束した場合は、約束時に総額の贈与(定期金に関する権利)があったとみなされることがあります。金額と時期を毎年あらためて決める、贈与契約書をその都度作るなど、単発の贈与である実態を残してください。
相続時精算課税なら繰り上げ返済の資金にも使えますか?
使えます。相続時精算課税(60歳以上の父母・祖父母から18歳以上の子・孫への贈与)は資金使途に制限がなく、累計2,500万円の特別控除と年110万円の基礎控除があります。ただし贈与された財産は将来の相続時に相続財産へ持ち戻して精算されるため、相続税も含めた損得は税理士への相談をおすすめします。一度選択するとその贈与者からの贈与は暦年課税に戻せない点にも注意が必要です。

理解度チェック

Q. 親からもらったお金を住宅ローンの繰り上げ返済に充てる場合も、「住宅取得等資金の贈与の非課税」(省エネ等住宅で最大1,000万円)が使える。

答え: ❌ — この非課税措置の対象は「住宅の新築・取得・増改築等の対価に充てるための金銭」で、すでに借りている住宅ローンの返済に充てる資金は対象外です。繰り上げ返済のための贈与は通常の贈与として扱われ、年110万円の基礎控除を超えると贈与税の対象になります。

参考情報