住宅取得資金の贈与は非課税にできる|限度額・条件・手続きの注意

マイホームの頭金を親や祖父母に援助してもらう——ごく一般的な話ですが、個人からの贈与には年間110万円の基礎控除を超えると贈与税がかかります。贈与税は税率の高い税金で、たとえば1,000万円をそのまま贈与すると、18歳以上の子への特例税率でも約177万円(概算)の贈与税が発生します。

この負担を避けるために用意されているのが「直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税措置」です。要件を満たせば、省エネ等住宅で1,000万円、それ以外の住宅で500万円までの贈与が非課税になります。ただし、この制度は適用要件が細かく、しかも「非課税枠内でも申告しなければ適用されない」という落とし穴があります。

本記事では、2026年7月時点の制度の概要と条件、手続き、実務でよくある失敗例を解説します。本記事は概要の解説であり、贈与や相続は個別事情による差が大きい分野です。実行前に税理士等の専門家に確認し、最新の制度内容は国税庁の情報で確認してください。

制度の概要——省エネ等住宅1,000万円・その他500万円まで非課税

正式には「直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の贈与税の非課税」と呼ばれる制度です。父母や祖父母など直系尊属から、自分が住むための家の新築・購入・増改築に充てる資金の贈与を受けた場合、一定額まで贈与税が非課税になります。

非課税限度額は住宅の質によって2段階に分かれます。断熱等性能等級など一定の省エネ性能等を満たす「省エネ等住宅」なら1,000万円、それ以外の住宅なら500万円です。省エネ等住宅であることは自己申告ではなく、住宅性能証明書などの書類で証明する必要があります。近年の新築住宅は省エネ基準への適合が義務化されているため省エネ等住宅に該当するものが増えていますが、非課税措置の上乗せ要件はそれより高い水準に設定されているので、購入前に売主や建築会社に証明書が取得できるかを確認しておくと確実です。

対象になるのはあくまで「住宅取得等資金」、つまり住宅の新築・取得・増改築の対価に充てるお金の贈与です。家そのもの(不動産の現物)の贈与や、すでに借りている住宅ローンの返済資金に充てる贈与は対象外です。

この制度は恒久的な制度ではなく、適用期限が区切られた時限措置です。過去にも期限の延長と限度額の変更が繰り返されてきました。契約や贈与のタイミングによって適用可否や限度額が変わるため、実行前に必ず国税庁サイトで最新の期限・金額を確認してください。

対象者と住宅の条件——所得・年齢・床面積の要件

非課税措置には、贈与を受ける側(受贈者)と住宅そのものの両方に要件があります。主なものを整理します。

特に見落としやすいのが「贈与の翌年3月15日までに住宅を取得して居住する(または居住が確実と見込まれる)」という期限です。注文住宅で完成が遅れた場合や、マンションの引き渡しが翌年3月15日に間に合わない場合は適用できないことがあるため、贈与を受けるタイミングは引き渡し時期から逆算して決める必要があります。

主な適用要件(2026年7月時点の概要。詳細は国税庁で要確認)
項目主な要件
贈与者父母・祖父母などの直系尊属(配偶者の父母は対象外)
受贈者の年齢贈与を受けた年の1月1日時点で18歳以上
受贈者の所得贈与年の合計所得金額2,000万円以下(床面積40㎡以上50㎡未満の住宅は1,000万円以下)
床面積40㎡以上240㎡以下で、2分の1以上が自分の居住用
取得・居住の期限贈与の翌年3月15日までに取得し居住(居住見込み含む)
中古住宅の場合新耐震基準に適合していること等(登記上の建築日等で判定)
資金の使途住宅の新築・取得・増改築の対価に充当(ローン返済への充当は不可)

非課税枠内でも贈与税の申告が必須——翌年2月1日〜3月15日

この制度の最大の落とし穴が申告義務です。非課税措置は「申告することが適用の条件」であり、贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までの間に、贈与税の申告書と添付書類を税務署に提出しなければなりません。

「非課税枠に収まっているから税額ゼロ=申告不要」ではありません。期限内に申告しなかった場合、原則として非課税措置は適用されず、通常の贈与として贈与税が課税される可能性があります。500万円1,000万円という金額に対する贈与税は数十万〜百数十万円規模になるため、申告忘れの代償は非常に大きいと考えてください。

申告には、受贈者の戸籍謄本(贈与者との続柄の証明)、贈与年の所得金額が分かる書類、売買契約書や工事請負契約書の写し、登記事項証明書、省エネ等住宅の場合は住宅性能証明書などの添付が必要です。書類の収集に時間がかかるものもあるため、年明け早々から準備を始めるのが安全です。

110万円の基礎控除との併用・相続時精算課税との選択

住宅取得等資金の非課税措置は、暦年課税の基礎控除110万円と併用できます。たとえば省エネ等住宅なら、非課税枠1,000万円+基礎控除110万円で、同じ年に最大1,110万円まで贈与税がかからない計算になります(基礎控除分はその年の他の贈与との合算です)。

また、贈与者が60歳以上などの要件を満たす場合は「相続時精算課税」を選択する道もあります。相続時精算課税は累計2,500万円までの特別控除(2024年以降は別枠で年110万円の基礎控除も)がある制度で、住宅取得等資金の非課税措置とも併用できます。ただし、相続時精算課税で贈与された財産は将来の相続時に相続財産へ持ち戻して精算されるうえ、一度選択するとその贈与者からの贈与は二度と暦年課税に戻せません。

どの組み合わせが有利かは、親の資産規模・将来の相続税の見込み・他の相続人との関係によってまったく変わります。目先の贈与税だけでなく相続まで見据えた判断が必要な領域なので、金額が大きい場合は実行前に税理士へ相談することを強くおすすめします。

よくある失敗例——タイミングと使い方のミスが命取り

この制度は要件が形式的に判定されるため、「実質的には住宅資金なのに要件を外して課税された」という失敗が起こりがちです。実務でよくあるパターンを挙げます。

特に多いのが順序のミスです。非課税になるのは「贈与を受けた資金を住宅取得の対価に充てる」場合であり、先に自己資金や住宅ローンで決済を済ませ、その後に親から資金をもらうと「住宅取得後の贈与」となって対象外です。贈与→支払いの順序を必ず守り、資金の流れが通帳で追えるようにしておきましょう。

  • 住宅の代金決済がすべて終わった「後」に贈与を受けた(取得資金への充当と認められない)
  • 受け取った資金の一部を使い切らず手元に残した(残額は非課税の対象外)
  • 贈与資金を頭金でなく、既存の住宅ローンの繰上返済に充てた(対象外)
  • 親が出したお金に応じた共有持分を登記せず、資金拠出と持分がずれて別の贈与を指摘された
  • 配偶者の親(義父母)からの資金を自分が受け取った(直系尊属ではないため対象外。配偶者本人が受贈し持分を持てば適用余地)
  • 翌年3月15日の取得・居住期限に引き渡しが間に合わなかった
  • 贈与税の申告を忘れた・期限に遅れた

よくある質問

いくらまで非課税になりますか?
2026年7月時点の概要では、省エネ等住宅で1,000万円、それ以外の住宅で500万円が非課税限度額です。さらに暦年課税の基礎控除110万円と併用できるため、省エネ等住宅なら同じ年に最大1,110万円まで贈与税がかからない計算になります。ただし限度額や適用期限は税制改正で変わるため、実行前に国税庁の最新情報を確認してください。
夫婦それぞれの親から贈与を受けた場合はどうなりますか?
非課税枠は受贈者ごとに判定されます。夫が夫の親から、妻が妻の親からそれぞれ贈与を受ければ、要件を満たす限り夫婦それぞれが非課税措置を使えます。ただし、各自が受けた資金の額に応じて住宅の共有持分を登記しないと、夫婦間で贈与があったと扱われるおそれがあります。資金の出所と持分割合を一致させることが重要です。
妻の親から夫が援助を受けても非課税になりますか?
なりません。この制度の贈与者は受贈者本人の直系尊属(父母・祖父母など)に限られ、配偶者の親は直系尊属に当たりません。妻の親が援助するなら妻が贈与を受け、妻がその資金に応じた共有持分を持つ形にすれば適用の余地があります。誰から誰への贈与かで結論が変わるため、資金移動の前に設計してください。
非課税枠に収まっていれば申告しなくてもよいですか?
いいえ、申告は必須です。この非課税措置は贈与の翌年2月1日から3月15日までに贈与税の申告書と添付書類を提出することが適用の条件で、税額がゼロでも申告しなければ原則として適用を受けられません。申告を忘れると通常の贈与として課税されるおそれがあります。期限に遅れた場合の扱いは事情により異なるため、気づいた時点ですぐ税務署や税理士に相談してください。
住宅ローンの返済に充てる資金の贈与も対象になりますか?
対象外です。非課税になるのは住宅の新築・取得・増改築の「対価に充てる」資金の贈与であり、すでに組んだ住宅ローンの返済(繰上返済を含む)への充当は住宅取得等資金に該当しません。ローン返済の援助を受けると通常の贈与として基礎控除110万円を超える部分に贈与税がかかり得ます。援助を受けるなら購入時の頭金の段階で設計するのが基本です。

参考情報