離婚したら住宅ローンはどうなる?家の分け方と名義・連帯債務の整理
離婚を考えるとき、住宅ローンが残った家は財産分与の中で最も扱いが難しい資産です。「家は誰のものか」「ローンは誰が払うのか」「住み続けられるのか」——この3つが絡み合ううえ、夫婦間の合意だけでは決められない要素(銀行との契約)が入ってくるからです。
特に注意したいのは、離婚協議書で「ローンは夫が払う」と決めても、銀行に対する債務者・保証人の立場は1ミリも変わらないという点です。取り決めと契約のズレを放置すると、離婚から数年後に元配偶者の滞納で自宅が競売にかかる、一括請求が自分に来る、といった深刻な事態になり得ます。
本記事では、2026年7月時点の一般的な実務に基づいて、現状把握から財産分与の考え方、パターン別の選択肢、連帯債務・連帯保証の整理、公正証書と相談先までを順に解説します。財産分与や税務の扱いは個別事情で結論が変わるため、実行前に弁護士・税理士等の専門家に確認してください。
まず現状把握——名義・残債・評価額の3点セット
話し合いを始める前に、事実関係を書類で確認します。感覚や記憶で議論すると、後で前提が崩れて話し合いがやり直しになりがちです。最低限そろえるのは「不動産の名義」「ローンの残債と契約内容」「家の現在の評価額」の3点です。
名義は法務局で登記事項証明書を取れば正確に分かります。単独名義か共有名義か、共有なら持分割合はいくつか。ローンは金融機関の返済予定表や残高証明書で残債を確認し、あわせて契約の型——単独債務か、ペアローン(夫婦それぞれが債務者)か、連帯債務か、一方が連帯保証人か——を金銭消費貸借契約書で確認します。評価額は不動産会社の査定(できれば複数社)で把握します。
財産分与の基本——「評価額−残債」がプラスかどうかで話が変わる
財産分与では、婚姻中に形成した財産を原則2分の1ずつ分けます。家については「評価額−ローン残債」で純資産(残る価値)を計算し、これがプラス(アンダーローン)なら、その差額が分与の対象になるのが基本的な考え方です。たとえば売却すれば残債を完済してお釣りが出る状態なら、そのお釣り相当を分け合うイメージです。
評価額より残債が大きいオーバーローンの場合、家に関しては分けるべきプラスの財産がない状態です。この場合は「家をどう分けるか」ではなく「残る借金と住まいをどう整理するか」という問題になり、売却してもローンが残るため、そのまま売るには不足分を自己資金で埋める必要があります。
財産分与として家や金銭を受け取る側には、原則として贈与税はかからないとされています(過大な分与など例外はあります)。一方、家を渡す側に譲渡所得の課税が生じるケースなど、税務は直感に反する論点が多い領域です。名義を動かす前に、概要であっても税理士に確認しておくことをおすすめします。
パターン別の整理——売却清算が最もシンプル
家とローンの処理は、大きく「売る」か「どちらかが住む」かに分かれます。トラブルの少なさでいえば、売却して現金で清算する方法が最もシンプルです。家という分けられない資産を現金化し、残債を完済して関係を断ち切れるからです。
一方、子どもの学区を変えたくないなどの理由で「夫名義・夫のローンのまま妻子が住み続ける」形を選ぶ夫婦も多くいます。これは最も慎重な設計が必要なパターンで、後述するリスク管理(取り決めの公正証書化など)が欠かせません。
| 選択肢 | 向いているケース | 主な注意点 |
|---|---|---|
| 売却して現金で清算 | アンダーローンで、双方とも住み続ける強い事情がない | 売却費用・引越しが必要。オーバーローンなら不足分の手当てが必要 |
| 名義人(例:夫)がそのまま住む | 名義とローンと居住者が一致する | 相手の持分・連帯保証が残っていないかの確認と整理が必要 |
| 夫名義のまま妻子が住む | 子どもの環境を変えたくない | 夫の滞納で競売の恐れ。養育費・家賃相当の取り決めを公正証書に |
| 借り換えて住む側の単独名義にする | 住む側に十分な収入・審査通過の見込みがある | 審査に通らなければ成立しない。諸費用も発生 |
ペアローン・連帯債務・連帯保証は簡単には外れない
夫婦で組んだローンの整理が、離婚時の最大の難所です。ペアローンは夫婦それぞれが債務者として互いに連帯保証し合う形が一般的で、連帯債務は2人がローン全額の返済義務を負い、連帯保証は主債務者が払えないときに保証人が全額の請求を受ける立場です。いずれも「離婚したので外してください」という申し出に、銀行が応じる義務はありません。銀行にとって担保と保証を減らすことは純粋な損だからです。
現実的な外し方は主に2つです。1つは住み続ける側の単独ローンへの「借り換え」で、その人の収入だけで審査に通る必要があります。もう1つは同じ銀行内での「免責的債務引受」(債務者を交代し、抜ける側を免責する手続き)ですが、これも代わりの債務者の返済能力や追加担保・代替保証人の提供が前提で、ハードルは高めです。
離婚協議書に「ローンと保証はすべて夫が引き受ける」と書いても、銀行の同意がない限り妻の連帯保証・連帯債務は残ります。数年後に元夫が滞納すれば、請求は妻に来ます。外せないまま離婚する場合は、その前提でリスクを織り込んだ取り決め(後述の公正証書、生命保険の活用など)を検討してください。
名義人でない側が住み続けるリスクと公正証書
「夫名義のまま妻子が住む」パターンで妻側が抱えるリスクは主に2つです。第一に、夫が滞納すれば抵当権が実行され、競売で落札された時点で住み続けることはできなくなります。第二に、名義人である夫は法律上その家を売却でき、住んでいる側の同意は不要です。ある日突然、買主や不動産会社から連絡が来る事態もあり得ます。
このパターンを選ぶなら、口約束や私製の念書で済ませず、養育費や住居の負担に関する取り決めを「強制執行認諾文言付きの公正証書」にしておくことが重要です。公正証書があれば、支払いが滞ったときに裁判を経ずに給与等の差押えを申し立てられます。滞納や無断売却のリスク自体を消すことはできませんが、対抗手段の有無は大きな差になります。
あわせて、可能であれば「将来の一定時点(子の独立時など)で売却して清算する」「妻が持分を取得する」など出口を決めておく、夫の団体信用生命保険や生命保険の受取人・内容を確認しておく、といった手当ても検討に値します。
相談先——ひとりで抱えず専門家を使う
住宅ローンが絡む離婚は、法律(財産分与・強制執行)、金融(審査・債務引受)、不動産(査定・売却)、税務が交差します。全体像を整理するには弁護士への相談が近道で、収入等の条件を満たせば法テラス(日本司法支援センター)の無料法律相談や弁護士費用の立替制度を利用できます。
銀行への相談も早めが得策です。借り換えや債務引受の可否、滞納しそうな場合の条件変更など、選択肢の有無は聞いてみないと分かりません。売却を視野に入れるなら、複数の不動産会社に査定を依頼して評価額の相場観をつかんでおくと、財産分与の話し合いも現実的な数字で進められます。
よくある質問
- 離婚したら住宅ローンの支払い義務はどうなりますか?
- 離婚しても、銀行に対する債務者・連帯保証人の立場は自動的には変わりません。支払い義務は離婚協議の内容ではなく、金銭消費貸借契約で決まります。夫婦間で「夫が払う」と合意しても、妻が連帯債務者や連帯保証人なら、夫の滞納時に銀行は妻に請求できます。契約上の立場を変えるには、借り換えや免責的債務引受など銀行の同意を伴う手続きが必要です。
- オーバーローンの家はどう分ければよいですか?
- 評価額より残債が大きい場合、家に関して分与すべきプラスの財産はないと考えるのが一般的です。選択肢は、どちらかが住んでローンを払い続ける、不足分を自己資金で埋めて売却する、銀行の同意を得て任意売却する、などになります。残る債務の負担をどうするかは夫婦間の取り決めと銀行との契約の両面から整理が必要で、弁護士に相談する価値が高いケースです。
- 妻と子どもが夫名義の家に住み続けることはできますか?
- 夫が約束どおり返済を続ける限りは可能ですが、滞納すれば競売により退去を迫られ、また名義人である夫は妻の同意なく家を売却できます。このリスクを踏まえ、養育費や住居負担の取り決めを強制執行認諾文言付きの公正証書にする、可能なら妻の単独ローンへの借り換えや持分取得を検討する、出口(将来の売却時期など)を決めておくといった手当てが重要です。
- 連帯保証人から外れる方法はありますか?
- 主な方法は、住み続ける側が単独で借り換えて元のローンを完済する、同等以上の返済能力がある代わりの保証人や追加担保を用意して銀行に交代を認めてもらう、免責的債務引受で債務者を一本化する、のいずれかです。いずれも銀行の審査と同意が前提で、簡単には認められません。売却して完済すれば保証関係も消えるため、外せない場合の現実的な出口が売却になることもあります。
- 財産分与で家をもらうと税金はかかりますか?
- 受け取る側には、婚姻中の財産の清算として相当な範囲であれば原則として贈与税はかからないとされています。ただし過大な分与などの例外があり、また家を渡す側に譲渡所得の課税が生じる場合や、登記に伴う登録免許税などの費用も発生します。税務の扱いは個別事情で変わるため、名義変更の前に税理士へ、全体の取り決めは弁護士へ確認してください。