相続登記の義務化とは?期限3年・過料・手続きの流れ

親から実家を相続したものの、名義は亡くなった親のまま——こうした「相続登記の放置」は長年の慣行でしたが、2024年4月1日から相続登記は法律上の義務になりました。正当な理由なく期限内に登記をしないと、10万円以下の過料の対象になります。所有者不明土地(不動産登記簿を見ても所有者が分からない・連絡がつかない土地)が全国で九州の面積を超える規模に達し、公共事業や災害復旧の妨げになっていることが、この制度改正の背景です。

重要なのは、義務化より前に発生した過去の相続も対象になることです。「ずっと前に相続した実家が祖父名義のまま」というケースも例外ではなく、経過措置の期限である2027年3月31日が迫っています。2026年7月時点で未登記の不動産に心当たりがあるなら、今が動くべきタイミングです。

本記事では、義務化の内容(3年の期限と過料)、過去の相続の扱い、手続きの流れと必要書類、自分でやる場合と司法書士に依頼する場合の費用比較、そして期限に間に合わないときの応急措置「相続人申告登記」までを、2026年7月時点の制度に基づいて解説します。

義務化の内容——「知った日から3年以内」・怠ると過料10万円以下

2024年4月1日に施行された改正不動産登記法により、相続(遺言による取得を含む)で不動産の所有権を取得した相続人は、「自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、その所有権を取得したことを知った日」から3年以内に相続登記を申請しなければならなくなりました。遺産分割協議がまとまった場合は、協議成立日から3年以内に、その内容に基づく登記を申請する義務もあります。

正当な理由がないのに義務に違反すると、10万円以下の過料の対象になります。過料は刑罰ではありませんが、行政上の金銭的な制裁です。実際の運用では、法務局(登記官)がまず登記申請を促す催告を行い、それでも申請されない場合に裁判所への通知が行われる流れとされており、いきなり過料が科されるわけではありません。

「正当な理由」として認められ得る例には、相続人が極めて多数で戸籍等の収集や相続人の把握に時間を要するケース、遺言の有効性や遺産の範囲が争われているケース、申請義務者が重病であるケースなどが法務省から示されています。単に「面倒だった」「知らなかった」は正当な理由にはなりません。

なお、期限の起算点は「死亡日」ではなく「相続で不動産を取得したと知った日」です。例えば、疎遠だった親族の死亡と自分が相続人であることを後から知った場合、知った日から3年を数えます。

過去の相続も対象——猶予は2027年3月31日まで

この義務は、2024年4月1日より前に発生した相続にも適用されます。経過措置として、施行日(2024年4月1日)と「相続で取得したと知った日」のいずれか遅い日から3年以内に登記すればよいとされているため、施行前から未登記だった不動産の多くは、2027年3月31日が申請期限となります。

「祖父名義のままの山林」「曽祖父名義のままの実家の底地」のように世代をまたいで放置された不動産は、相続人が数十人に膨れ上がっていることがあります。この場合、戸籍の収集と相続人の特定だけで数ヶ月かかることも珍しくありません。2027年3月末の期限から逆算すると、2026年7月時点ですでに余裕はないと考え、すぐに調査を始めることをおすすめします。

自分や親の名義になっていない不動産に心当たりがある場合は、まず固定資産税の納税通知書(課税明細書)で物件を洗い出し、法務局で登記事項証明書を取得して名義を確認してください。市区町村によっては、亡くなった人がその市区町村内に持っていた不動産の一覧(名寄帳)を相続人が取得できます。

手続きの流れと必要書類

相続登記は、対象不動産の所在地を管轄する法務局に申請します。大まかな流れは、①相続財産と相続人の確定(戸籍収集)、②遺言書の有無の確認、③遺言がなければ遺産分割協議(誰が不動産を相続するか決定)、④必要書類を揃えて登記申請、⑤登記完了(登記識別情報の受領)、です。

登記申請時には登録免許税がかかります。税額は不動産の固定資産税評価額の0.4%です(例:評価額1,000万円なら4万円)。なお、相続した土地の評価額が100万円以下の場合など、登録免許税が免税される措置があります(2026年7月時点。免税措置には期限があるため、適用可否は法務局の案内で確認してください)。

2026年7月時点では、戸籍の広域交付制度により、本籍地が遠方でも最寄りの市区町村窓口で戸籍謄本等をまとめて請求できるようになっており(コンピュータ化されていない一部の戸籍等は対象外)、以前より書類集めの負担は軽くなっています。また、法務局には登記手続案内(予約制)があり、自分で申請する場合の書式の相談ができます。

  • 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本等一式(相続人確定のため)
  • 相続人全員の現在の戸籍謄本
  • 被相続人の住民票の除票(または戸籍の附票)
  • 不動産を取得する相続人の住民票
  • 遺産分割協議書+相続人全員の印鑑証明書(協議で分ける場合)/遺言書(遺言による場合)
  • 固定資産評価証明書など評価額が分かる書類(登録免許税の計算用)
  • 登記申請書(法務省サイトに様式・記載例あり)

自分でやるか、司法書士に頼むか——費用と手間の比較

相続登記は自分で申請することもできます。相続人が配偶者と子だけ、遺産分割もすんなりまとまった、対象不動産も自宅のみ——といったシンプルなケースなら、法務局の登記手続案内や法務省の記載例を参考に、実費(登録免許税+書類取得費)だけで完了させることは十分可能です。

一方、司法書士に依頼した場合の報酬の相場は、シンプルな案件でおおむね数万円〜十数万円程度(登録免許税等の実費は別)です。相続人が多い・代襲相続や数次相続(登記しないうちに相続人も死亡)が絡む・不動産が複数の法務局管内に散らばっている・平日に動く時間がない、といった場合は、依頼する価値が十分あります。

自分で申請 vs 司法書士依頼(2026年7月時点の目安)
項目自分で申請司法書士に依頼
費用実費のみ(登録免許税0.4%+戸籍等の取得費数千円〜)実費+報酬(目安:数万円〜十数万円)
手間戸籍収集・書類作成・法務局対応をすべて自分で委任状等への署名押印が中心
期間慣れないと数週間〜数ヶ月書類が揃えば比較的短期間
向くケース相続人が少なく協議も円満なシンプルな相続相続人多数・数次相続・遠方不動産・多忙な人

間に合わないときの応急措置——相続人申告登記

遺産分割協議がまとまらない、相続人の調査に時間がかかる——そんなときのために、義務化と同時に「相続人申告登記」という新しい制度が設けられました。自分が登記名義人の相続人であることを法務局に申し出るだけの簡易な手続きで、これを期限内に行えば、相続登記の申請義務を暫定的に果たしたものと扱われます。

相続人申告登記は、自分の戸籍等(被相続人の相続人であることが分かる範囲)を添えて申し出るだけでよく、他の相続人の関与は不要、登録免許税もかかりません。ただしあくまで「相続人の一人がここにいる」ことを登記簿に記録するだけで、所有権の移転を公示するものではありません。

相続人申告登記だけでは不動産を売却したり担保に入れたりすることはできず、その後に遺産分割が成立した場合は、成立日から3年以内に改めて正式な相続登記(遺産分割の内容に基づく所有権移転登記)を申請する義務があります。「応急措置」であって「ゴール」ではない点に注意してください。

放置した不動産の末路——問題は雪だるま式に膨らむ

相続登記を放置すると、過料のリスクだけでなく、実害が世代を追うごとに膨らみます。登記しないまま相続人が亡くなると(数次相続)、その配偶者や子にも権利が広がり、遺産分割協議に必要な合意形成の相手がねずみ算式に増えていきます。数十人の共有状態になれば、売却はおろか、解体や賃貸すらままなりません。

名義が古いままの不動産は、売却できない・担保に入れられない・相続人の一人が認知症になると協議自体が困難になる、といった問題を抱えます。加えて、誰も管理しない実家は空き家として老朽化し、特定空家等に指定されれば固定資産税の住宅用地特例が外れて税負担が跳ね上がるおそれもあります。

逆にいえば、相続登記を早めに済ませることは、売却・活用・次の相続対策すべての出発点になります。実家の扱い(売る・貸す・住む)を家族で話し合う際も、まず名義を現在の所有者に揃えることが第一歩です。なお、遠方の使い道のない土地については、要件を満たせば国に引き取ってもらう相続土地国庫帰属制度(2023年開始)という選択肢もあります。

よくある質問

相続登記はいつまでにしなければなりませんか?
2024年4月1日以降、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ不動産の所有権を取得したことを知った日から3年以内に申請する義務があります。遺産分割協議が成立した場合は、成立日から3年以内にその内容に基づく登記も必要です。2024年4月より前の相続も対象で、多くの場合2027年3月31日が期限となります。
期限を過ぎると必ず10万円の過料を払うのですか?
正当な理由なく義務に違反した場合に「10万円以下の過料」の対象となる制度で、必ず満額が科されるわけではありません。運用上は、法務局からまず登記申請を促す催告が行われ、それでも応じない場合に裁判所へ通知される流れとされています。相続人が極めて多数で調査に時間がかかる場合や遺産の範囲に争いがある場合などは「正当な理由」と認められ得ますが、放置してよい理由にはならないため早めの対応が安全です。
遺産分割協議がまとまりません。3年以内に登記できない場合はどうすればよいですか?
相続人申告登記を利用してください。自分が登記名義人の相続人であることを法務局に申し出る簡易な手続きで、期限内に行えば相続登記の申請義務を暫定的に果たしたことになります。他の相続人の関与は不要で、登録免許税もかかりません。ただし所有権を公示するものではないため、その後遺産分割が成立したら、成立日から3年以内に正式な相続登記を申請する必要があります。
相続登記の費用はいくらかかりますか?
登録免許税が不動産の固定資産税評価額の0.4%(評価額1,000万円なら4万円)かかるほか、戸籍謄本等の書類取得費が数千円程度必要です。司法書士に依頼する場合は、これらの実費に加えて報酬が目安として数万円から十数万円程度かかります。土地の評価額が100万円以下の場合などに登録免許税が免税される措置もあるため、該当しそうな場合は法務局の案内を確認してください。
何十年も前に亡くなった祖父名義のままの土地も登記しないといけませんか?
対象になります。義務化前の相続についても、施行日(2024年4月1日)か相続で取得したと知った日のいずれか遅い日から3年以内、つまり多くの場合2027年3月31日までに相続登記が必要です。世代をまたいだ相続は相続人が多数になり戸籍収集だけで数ヶ月かかることもあるため、固定資産税の課税明細書や名寄帳で対象不動産を洗い出し、早めに司法書士への相談も含めて着手することをおすすめします。

参考情報