平成27年9月関東・東北豪雨の記録|鬼怒川決壊と常総市の浸水被害の教訓
この記事の要点
- 2015年9月9〜11日、台風18号等の影響で関東・東北が記録的大雨(気象庁命名「平成27年9月関東・東北豪雨」)。栃木県日光市五十里で24時間551.0mmなど、16地点で24時間雨量の観測史上最多を更新
- 9月10日12時50分頃、鬼怒川の堤防が常総市三坂町で決壊(最終決壊幅約200m)。常総市の約1/3にあたる約40km2が浸水し、市役所も孤立、約4,300人が救助された
- 全国の住家被害は全壊82棟・半壊6,215棟・床上浸水2,812棟・床下浸水10,215棟(平成28年1月12日時点・内閣府まとめ)。宅地の浸水が概ね解消するまで約10日を要した
2015年(平成27年)9月9日から11日にかけて、台風第18号から変わった低気圧に南から湿った空気が流れ込み続け、関東地方と東北地方は記録的な大雨となりました。気象庁はこの大雨を「平成27年9月関東・東北豪雨」と命名。栃木県・茨城県・宮城県に大雨特別警報が発表され、9月10日には鬼怒川の堤防が茨城県常総市で決壊、市の約3分の1が水没する事態となりました。
本記事は、この豪雨でどこで・どんな雨が降り・どんな被害が出たのかを、内閣府・国土交通省の公表資料にもとづいて記録するページです。テレビ中継で全国が見守った常総市の氾濫は、その後の日本の水害対策(避難情報・ハザードマップの見直し)を大きく変えた出来事でもあります。常総市・日光市・鹿沼市など被害の大きかった地域の状況と、住まい選びに持ち帰るべき教訓をまとめます。
どんな雨だったか:日光市で24時間551mm、16地点で観測史上最多
この豪雨の特徴は、線状降水帯が長時間かかり続けたことです。台風から変わった低気圧に向かって湿った空気が流れ込み、南北にのびる帯状の雨雲が鬼怒川流域に半日以上停滞。栃木県日光市の五十里(いかり)観測所では24時間雨量551.0mmと、1975年(昭和50年)の観測開始以来最多を記録しました。
関東・東北の広い範囲で雨量記録が塗り替えられ、統計期間10年以上の観測地点のうち16地点で最大24時間降水量が観測史上最多を更新。鬼怒川上流域(石井地点上流)では、流域平均の24時間雨量が観測史上最多の410mmに達し、時間20mm前後の強い雨が14時間降り続きました。
| 地点 | 24時間降水量 | 備考 |
|---|---|---|
| 栃木県日光市(五十里) | 551.0mm | 観測史上1位(昭和50年の観測開始以来) |
| 栃木県日光市(今市) | 541.0mm | 観測史上1位。期間降水量は647.5mm |
| 栃木県鹿沼市(鹿沼) | 444.0mm | 観測史上1位 |
| 栃木県日光市(土呂部) | 444.0mm | 観測史上1位 |
| 茨城県古河市(古河) | 247.0mm | 観測史上最多を更新 |
| 埼玉県越谷市(越谷) | 238.0mm | 観測史上最多を更新 |
鬼怒川決壊の経過:越水から約2時間で堤防が壊れた(常総市三坂町)
鬼怒川下流の水海道(みつかいどう)水位観測所では、9月10日7時から11日2時までの20時間にわたり氾濫危険水位を超過し、水位・流量とも観測史上最大を記録しました。10日11時頃、常総市三坂町地先(左岸21.0km付近)で堤防を越える越水が確認され、12時頃には住宅地側の堤防のり尻が削られ始め、12時50分頃に堤防が決壊。決壊幅は最終的に約200mに広がりました。
決壊地点の上流側・常総市若宮戸地先(左岸24.75km付近)でも溢水が発生するなど、鬼怒川だけで決壊1箇所・溢水7箇所の被害が出ています。鬼怒川堤防調査委員会の調査では、決壊の主要因は越水した水が堤防の住宅地側のり尻を洗掘し、小規模な崩壊が連続して進んだことと結論づけられました。
「川の水がじわじわあふれる」のではなく、越水の確認から約2時間で堤防そのものが壊れ、氾濫流が家屋を押し流す——外水氾濫(河川の氾濫)の怖さが全国に映像で伝わった災害でした。市街地の雨があふれる内水氾濫との違いは、内水氾濫の解説記事で整理しています。
被害の全体像:常総市の約1/3・約40km2が浸水、約4,300人を救助
決壊等に伴う氾濫で、常総市では市の約3分の1に相当する約40km2が浸水し、常総市役所も孤立しました。逃げ遅れた多くの住民が屋根や建物に取り残され、ヘリコプターで1,339人・ボートなど地上部隊で2,919人、あわせて約4,300人が救助されています。宅地や公共施設の浸水が概ね解消するまでに約10日を要しました。
全国の被害は、内閣府のとりまとめ(平成28年1月12日時点・消防庁情報)で死者8人(茨城県3人=常総市2人・境町1人、栃木県3人、宮城県2人)、負傷者79人。住家被害は全壊82棟・半壊6,215棟・床上浸水2,812棟・床下浸水10,215棟にのぼります。茨城県だけで全壊54棟・半壊5,418棟・床上浸水207棟・床下浸水3,751棟と、被害が集中しました。
半壊6,215棟という数字が示すとおり、この災害の中心は「床が濡れた」では済まない規模の住家被害です。常総市では全壊50棟・大規模半壊914棟・半壊2,773棟(茨城県災害対策本部資料)と、家そのものの再建・大規模修繕を迫られた世帯が数千規模で発生しました。
| 区分 | 全国 | 茨城県 | 栃木県 |
|---|---|---|---|
| 死者 | 8人 | 3人(常総市2・境町1) | 3人(鹿沼市・日光市・栃木市) |
| 全壊 | 82棟 | 54棟 | 24棟 |
| 半壊 | 6,215棟 | 5,418棟 | 225棟 |
| 床上浸水 | 2,812棟 | 207棟 | 1,967棟 |
| 床下浸水 | 10,215棟 | 3,751棟 | 3,812棟 |
この災害が変えたもの:避難情報とハザードマップの見直し
常総市では避難指示が11,230世帯・31,398人に発令されましたが、決壊までに避難が間に合わず多数の孤立者が出たことが大きな課題として検証されました。この災害を契機に、国は「水防災意識社会」の再構築を掲げ、想定最大規模降雨にもとづく浸水想定区域の見直しや、氾濫流で家屋が倒壊・流失するおそれのある区域(家屋倒壊等氾濫想定区域)の公表が進められました。
現在の洪水ハザードマップの多くが「1000年に1回規模」の最大想定で作られているのは、この災害以降の制度改正によるものです。決壊した鬼怒川では、国・県・市が連携した鬼怒川緊急対策プロジェクトとして堤防整備等のハード対策も進められました。
常総市の教訓を住まい選びに活かす
第一に、大河川沿いでは「浸水するか」だけでなく「浸水がどれくらい続くか」を見ること。常総市では水が引くまで約10日かかりました。ハザードマップポータルサイトでは浸水深に加えて「浸水継続時間」も公表されており、長時間浸水が想定される場所では2階への垂直避難だけでは生活が維持できません。
第二に、家屋倒壊等氾濫想定区域を確認すること。三坂町の決壊地点周辺では氾濫流で多くの家屋が倒壊・流失しました。この区域に該当する場所は「浸水深が浅くても家ごと壊れるおそれがある」場所で、立地選びの段階で確認すべき情報です。あわせて、購入予定地の過去の浸水履歴を自治体で調べておくと、広告では分からないリスクが見えてきます。
第三に、火災保険の水災補償と再建体力の確認です。全壊・大規模半壊クラスの被害では、公的支援(被災者生活再建支援金)だけで住宅は再建できません。水災補償の有無で受け取れる保険金は大きく変わります。大河川の氾濫リスクがある立地では、保険料を惜しまず水災補償を付けることをおすすめします。
よくある質問
- 常総市は水害に弱い地域なのですか?
- 「地域全体が弱い」という見方は正確ではありません。常総市の被害は、観測史上最多の雨で鬼怒川の水位が計画高水位を超え堤防が決壊したことによるもので、大河川の下流低地という条件は利根川・荒川流域など全国の多くの市街地に共通します。重要なのは市内のどこが低いか・浸水継続時間がどれくらいか・家屋倒壊等氾濫想定区域に入っていないかという場所単位の確認で、常総市が公表するハザードマップと浸水実績で個別の場所を確認してください。
- 鬼怒川の堤防はなぜ決壊したのですか?
- 鬼怒川堤防調査委員会の調査では、記録的な大雨で水位が堤防の高さを上回って越水し、あふれた水が住宅地側の堤防のり尻を削り、小規模な崩壊が連続して決壊に至ったと結論づけられています。9月10日11時頃に越水が確認され、12時50分頃に決壊、決壊幅は最終的に約200mに広がりました。決壊後は国の鬼怒川緊急対策プロジェクトで堤防整備等の対策が進められています。
- 常総市の浸水はどれくらい続いたのですか?
- 国土交通省の資料では、宅地や公共施設などの浸水が概ね解消するまでに約10日を要したとされています。市の約1/3にあたる約40km2が浸水する広範囲・長時間の氾濫で、排水ポンプ車を全国から集めた排水作業が続けられました。大河川の氾濫では「水が来るか」だけでなく「水がいつ引くか」が生活再建を左右することを示した事例です。
- 鬼怒川・利根川沿いで物件を探すとき、何を確認すべきですか?
- (1)洪水ハザードマップの浸水深(想定最大規模)、(2)浸水継続時間(長時間浸水エリアか)、(3)家屋倒壊等氾濫想定区域(氾濫流・河岸侵食)への該当、(4)自治体での過去の浸水履歴、(5)火災保険の水災補償込みの保険料——の5点です。平成27年9月関東・東北豪雨の浸水域では全壊・流失した家屋と持ちこたえた家屋の差が立地で分かれており、同じ市内でも場所単位の確認が欠かせません。