内水氾濫とは?川がなくても浸水する理由と近年の事例・自宅リスクの調べ方

この記事の要点

  • 内水氾濫は、下水道や側溝の排水能力を超えた雨水が市街地にあふれる水害で、川から離れた場所でも起こる
  • 令和8年8月千葉豪雨では、浸水被害を報告した人の55.7%が浸水想定区域や低位地帯の"外"だった(ウェザーニューズ分析)
  • 多くの都市の下水道は1時間50mm前後の雨を想定して整備されており、近年増えている1時間100mm級の雨は処理しきれない
  • 洪水ハザードマップだけでは内水リスクは分からない。市区町村の内水ハザードマップと土地の低さをあわせて確認する

内水氾濫(ないすいはんらん)とは、短時間の激しい雨で下水道・側溝・水路の排水が追いつかず、行き場を失った雨水が市街地にあふれる水害です。川の堤防から水があふれる「外水氾濫(洪水)」と違い、川から離れた住宅地や駅前でも起こるのが特徴で、2026年8月の「令和8年8月千葉豪雨」でも、浸水被害を報告した人の55.7%が浸水想定区域や低位地帯の"外"にいたと分析されています。

つまり「洪水ハザードマップで色がついていないから安全」とは言えません。本記事では、外水氾濫との違い、2019〜2026年に実際に起きた主な内水氾濫の事例、都市部で被害が増えている理由、そして自宅や購入予定地の内水リスクを自分で調べる方法を解説します。

内水氾濫と外水氾濫の違い:同じ「浸水」でも起こり方が違う

水害は大きく「外水氾濫」と「内水氾濫」に分かれます。外水氾濫は河川の水が堤防を越えたり堤防が壊れたりしてあふれるもので、一般に「洪水」と呼ばれ、浸水が深く広範囲に及びます。一方の内水氾濫は、市街地に降った雨そのものが排水しきれずにあふれるもので、浸水深は比較的浅いことが多いものの、雨が降り始めてから被害までの時間が短く、避難の余裕がほとんどないのが怖さです。

もうひとつ重要な違いが「どのマップに載っているか」です。よく目にする洪水ハザードマップは外水氾濫(河川の氾濫)の想定であり、内水氾濫は別の「内水ハザードマップ(雨水出水ハザードマップ)」で扱われます。内水ハザードマップは市区町村が作成しますが、整備状況には自治体差があり、作られていない地域もあります

「ハザードマップで真っ白=浸水しない」ではありません。白い理由が「リスクがない」なのか「内水の想定がそもそも作られていない」なのかは、マップの種類を確認しないと分かりません。

内水氾濫と外水氾濫の違い
内水氾濫外水氾濫(洪水)
起こる仕組み下水道・側溝の排水能力を超えた雨水があふれる河川の水が堤防を越える・堤防が決壊する
起こる場所川から離れた市街地・低地・くぼ地でも起こる河川の周辺
被害までの時間短い(降り始めから数十分のことも)比較的猶予がある(上流の降雨から時間差)
浸水の深さ浅め(床下〜床上)が中心。地下・半地下は深刻深く広範囲になりうる(2階到達も)
確認するマップ市区町村の内水(雨水出水)ハザードマップ洪水ハザードマップ(重ねるハザードマップ)

近年の主な内水氾濫の事例(2019〜2026年)

内水氾濫は毎年のように全国の都市部で起きています。ここ数年の代表的な事例を並べると、「川の近くではない」「浸水想定区域ではない」場所で繰り返し被害が出ていることが分かります。直近では2026年8月29〜30日にも、2026年8月福井大雨で勝山市の24時間350.5mmなど観測史上1位の雨量を更新し、坂井市などで田島川・磯部川の溢水と内水氾濫が併発しました(速報)。8月27日には2026年8月秋田大雨で藤里町が1時間68.5mm(8月の観測史上最多)の猛烈な雨となり、能代市などで浸水被害が出ています(速報)。

直近の2026年8月13〜14日の「令和8年8月千葉豪雨」(気象庁命名)では、柏市付近で1時間に約110mmの猛烈な雨が降り記録的短時間大雨情報が発表され、千葉市では12時間で341.5mmを観測。内閣府のまとめでは2026年8月23日時点で住家の床上・床下浸水があわせて約3,900棟にのぼりました。ウェザーニューズが浸水被害報告約2万件を浸水想定区域・低位地帯・レーダー雨量と重ねて分析した結果、被害報告の55.7%が浸水想定区域や低位地帯の"外"で、道路やアンダーパスの冠水を中心とする都市型の内水被害が広がっていたと報告されています。

2025年9月11日には東京都心で1時間100mmを超える雨が相次ぎ、記録的短時間大雨情報が連発。戸越銀座や自由が丘といった駅前・商店街エリアが冠水し、都内で1,200棟を超える浸水被害(うち床上浸水約900棟)が報告されました。いわゆる「山の手」の内陸市街地でも、雨の降り方次第で内水氾濫が起こることを示した事例です。

さかのぼると、2023年7月には梅雨前線の長雨(2023年7月秋田豪雨)で秋田市の中心市街地が広く浸水し床上・床下約7,800戸、同年6月には台風2号と梅雨前線の大雨で埼玉県越谷市・草加市を中心に3,000棟を超える浸水が、2022年9月には令和4年台風第15号で静岡市の巴川流域に約4,800棟の浸水と大規模断水が発生しています。各事例の詳しい記録は、それぞれの記録ページにまとめています。

2019年の令和元年東日本台風(台風19号)で川崎市の武蔵小杉駅周辺が浸水した事例も、多摩川の増水で排水管から水が逆流した内水氾濫でした。タワーマンションの地下電気設備が水没して停電・断水が長引き、「高層階に住んでいても建物の足元が浸かれば生活できない」ことが広く知られるきっかけになりました。タワマンの水害リスクは別記事で詳しく解説しています。

近年の主な内水氾濫・都市型水害の事例
発生時期地域概要
2026年8月(末)福井県嶺北(坂井市・勝山市・福井市ほか)2026年8月福井大雨。勝山市で24時間350.5mmなど観測史上1位を更新。中小河川23河川の溢水と内水氾濫が併発、住家浸水94軒(速報)
2026年8月(下旬)秋田県北部(能代市・藤里町・北秋田市ほか)2026年8月秋田大雨。藤里町で1時間68.5mm(8月の観測史上最多)、能代市で住家浸水、約1,800人に避難指示(速報)
2026年8月千葉県(柏市・我孫子市・千葉市ほか)令和8年8月千葉豪雨。1時間約110mmの猛烈な雨、住家浸水約3,900棟。浸水報告の55.7%が想定区域外
2025年9月東京都心(品川・目黒・世田谷ほか)1時間100mm超の記録的短時間大雨。商店街・駅前が冠水し都内で浸水1,200棟超(床上約900棟)
2023年7月秋田市(秋田駅周辺・中通・広面ほか)梅雨前線の長雨で県庁所在地の中心市街地が広く浸水。床上4,676戸・床下3,130戸。川の水位上昇に伴う内水と越水の複合
2023年6月埼玉県(越谷市・草加市ほか)台風2号と梅雨前線の大雨。越谷市で床上600件・床下2,529件。被害の大半が内水氾濫で災害救助法適用
2022年9月静岡市(巴川流域)台風15号の記録的大雨で市街地が広く浸水。断水も長期化し生活への影響が拡大
2019年10月川崎市(武蔵小杉駅周辺)令和元年東日本台風。多摩川増水で排水管から逆流する内水氾濫。タワマンの地下電気設備が水没し停電・断水

なぜ都市部で内水氾濫が増えているのか:3つの理由

第一に、雨の降り方そのものが激しくなっていることです。気象庁の統計では、1時間50mm以上の「滝のように降る雨」の年間発生回数は、統計開始当初の1976〜1985年と比べて直近10年ではおよそ1.5倍に増えています。1時間80mm以上の猛烈な雨にいたっては約2倍です。

第二に、下水道の設計が現代の豪雨に追いついていないことです。多くの都市の雨水排水施設は、おおむね1時間50mm前後の降雨を想定して整備されてきました。1時間100mmの雨は、この想定の2倍の水が一気に流れ込む状態で、施設が正常でも物理的に処理しきれません。

第三に、都市の地面が雨を吸わなくなったことです。アスファルトやコンクリートに覆われた市街地では雨水が地中に浸透せず、降った雨のほとんどが短時間で下水道と側溝に集中します。国土交通省のまとめでは、水害被害額に占める内水氾濫の割合は全国で半分程度、東京都では8割を超えており、都市に住む人にとって内水氾濫は「洪水よりも身近な水害」といえます。

自宅・購入予定地の内水リスクを調べる4ステップ

内水リスクは、次の順番で調べると漏れがありません。洪水ハザードマップの確認だけで終わらせないことがポイントです。

  • (1) 市区町村の内水ハザードマップを確認する:ハザードマップポータルサイトの「わがまちハザードマップ」から自治体のページへたどり、「内水」「雨水出水」のマップがあるか探す。マップが未整備の自治体もある
  • (2) 土地の低さ・成り立ちを見る:重ねるハザードマップの「地形分類」で、低地・旧河道・くぼ地に該当しないか確認する。周囲より低い土地は雨水が集まりやすい
  • (3) 建物側の弱点を確認する:半地下・地下室・掘り込み車庫・1階の居室は内水氾濫に弱い。周辺のアンダーパスや線路下の通路は冠水しやすい地形のサイン
  • (4) 過去に浸かった記録を調べる:自治体が公表する浸水実績図や窓口で、過去の浸水履歴を確認する。想定図より「実際に浸かった場所」の記録のほうが確実な手がかりになる

住まい選びと対策:内水リスクとどう付き合うか

内水リスクのある立地を完全に避けるのは、都市部では現実的でない場合があります。大切なのは、リスクを把握したうえで住まいの形と保険で備えることです。物件選びでは、同じ立地でも半地下・1階と2階以上ではリスクが大きく違います。浸水しやすいエリアで戸建てや1階住戸を選ぶなら、止水板・土のうの準備や、家電・分電盤の位置など建物側の工夫もあわせて検討しましょう。

保険面では、火災保険水災補償が内水氾濫による床上浸水等もカバーします(補償内容・支払条件は契約による)。2024年度からは水災の保険料が市区町村ごとのリスクに応じて5段階に細分化されており、内水リスクの高い地域は保険料にも表れる時代になりました。水災補償を外して保険料を下げる判断は、内水ハザードマップと土地の低さを確認してからにすべきです。

2020年8月からは、不動産取引の重要事項説明で水害ハザードマップ(洪水・内水・高潮)を使った説明が義務化されています。ただし説明は契約直前です。内見の段階で自分で内水マップと地形を確認しておけば、「契約直前に初めて知って迷う」事態を避けられます。

よくある質問

内水氾濫はハザードマップで確認できますか?
市区町村が内水(雨水出水)ハザードマップを作成していれば確認できます。国土交通省ハザードマップポータルサイトの「わがまちハザードマップ」から各自治体のマップを探せます。ただし整備状況には自治体差があり、マップが作られていない地域もあります。その場合は重ねるハザードマップの地形分類で土地の低さ・成り立ちを確認するのが代替手段になります。
浸水想定区域の外なら内水氾濫の心配はありませんか?
いいえ。洪水の浸水想定区域は河川の氾濫(外水)を想定したもので、内水氾濫は区域外でも起こります。実際、2026年8月の令和8年8月千葉豪雨では、浸水被害を報告した人の55.7%が浸水想定区域や低位地帯の外だったと分析されています。区域外でも、周囲より低い土地・くぼ地・半地下の建物は注意が必要です。
賃貸で1階や半地下の部屋を借りるときも気にすべきですか?
はい。内水氾濫の浸水深は床下〜床上程度が中心のため、被害は1階・半地下・地下に集中します。半地下住戸や掘り込み式の玄関は特に水が流れ込みやすい構造です。賃貸でも2020年8月から重要事項説明で水害ハザードマップの説明が義務化されていますが、契約前に自分で内水ハザードマップと周辺の高低差を確認しておくことをおすすめします。
内水氾濫の被害は火災保険で補償されますか?
火災保険に水災補償を付けていれば、内水氾濫による浸水被害も補償の対象になり得ます(床上浸水または地盤面から45cm超の浸水など、支払要件は契約によります)。水災補償を外すと保険料は下がりますが、内水リスクのある立地では外す判断は慎重にすべきです。詳しくは水災補償の要否の記事で解説しています。

参考情報