令和元年東日本台風の記録|武蔵小杉(川崎市中原区)のタワマン浸水と内水氾濫

この記事の要点

  • 2019年10月12日、令和元年東日本台風(台風19号)で神奈川県箱根町の日降水量は922.5mm——国内観測史上1位の記録的大雨
  • 武蔵小杉駅周辺の浸水は堤防の決壊ではなく、多摩川の水位上昇で排水樋管から市街地側へ水が逆流した内水氾濫。川崎市の検証では浸水量の70%以上が多摩川からの逆流水
  • タワーマンション地下電気設備が水没し、停電・断水が長期化。「高層階に住んでいても、建物の足元が浸かれば生活できない」ことを示した事例

2019年10月12日、令和元年東日本台風(台風19号)が記録的な大雨を伴って東日本を縦断しました。神奈川県箱根町では日降水量922.5mmという国内観測史上1位の雨量を観測。多摩川も計画高水位を超える記録的な水位まで増水し、東日本の広い範囲で河川の氾濫が相次ぎました。

そのなかで住まい選びの文脈で最も広く知られることになったのが、川崎市中原区・武蔵小杉駅周辺の浸水です。多摩川の堤防は決壊していないのに市街地が浸水し、タワーマンションの地下電気設備が水没して停電・断水が長期化——「内水氾濫」と「建物の足元のリスク」を全国に知らしめた事例を、川崎市の検証結果にもとづいて記録します。

何が起きたか:堤防は無事なのに、街が浸かった

中原区の市街地に降った雨水は、下水管を通って排水樋管(はいすいひかん)と呼ばれる出口から多摩川へ排出される仕組みになっています。ところが台風19号で多摩川の水位が排水口より高くなり、川の水が排水管を逆流して市街地側にあふれ出しました

川崎市の検証によると、武蔵小杉周辺を受け持つ山王排水樋管では、多摩川からの持続的な逆流が10月12日14時5分から翌13日3時40分まで続き、浸水量の70%以上が多摩川からの逆流水だったと推定されています。排水樋管には逆流を防ぐゲートがありますが、閉めると今度は市街地の雨水を排出できなくなるため、市はゲートを閉じない判断をしました。検証では、12日15時にゲートを閉じていれば浸水は狭いエリアにとどまったとされ、この結果を受けて市は樋管の運用ルールと観測体制を見直しています。

「堤防が守ってくれても、排水の出口から水は戻ってくる」——これが川沿い低地の内水氾濫の典型メカニズムです。内水氾濫の仕組み全般は解説記事でまとめています。

タワーマンションで起きたこと:地下設備の水没と生活停止

武蔵小杉駅周辺では、浸水した水がタワーマンションの地下に流れ込み、地下階に設置されていた受変電設備などの電気設備が水没。建物全体が停電し、エレベーター・給水ポンプ・トイレの排水までが止まりました。停電と断水は長期化し、高層階の住民は階段での上り下りと給水を強いられることになりました。

この事例が示したのは、タワーマンションの弱点は上層階ではなく足元にあるということです。想定浸水深がわずかでも、電気設備が地下や1階にあれば建物全体が機能を失います。以降、電気設備の設置階の確認や止水対策は、タワマンの水害リスク評価の標準項目になりました。国も2020年に、建築物の電気設備の浸水対策ガイドラインを策定しています。

令和元年東日本台風(2019年10月)・武蔵小杉周辺の浸水の要点
項目内容
浸水した地域川崎市中原区・武蔵小杉駅周辺(山王排水樋管ほかの排水区)
原因多摩川の水位上昇による排水樋管からの逆流(内水氾濫)。堤防の決壊はなし
逆流の継続時間10月12日14:05〜13日3:40(川崎市検証)
浸水量の内訳70%以上が多摩川からの逆流水(川崎市検証)
建物被害の特徴タワーマンションの地下電気設備が水没し、停電・断水が長期化
その後の対策排水樋管の運用ルール・観測体制の見直し(川崎市)、電気設備の浸水対策ガイドライン(国)

武蔵小杉が残した教訓:住まい選びで確認すべきこと

第一に、川沿い低地では「堤防の有無」ではなく「排水の仕組み」を見ること。堤防で守られた土地の雨水は、樋管やポンプで川へ送り出されています。川の水位が上がればこの出口は機能を失うため、ハザードマップの想定浸水深とあわせて、内水ハザードマップを確認してください。

第二に、マンションは「自分の階」ではなく「建物の足元」で評価すること。電気設備・受水槽・非常用発電機がどの階にあるか、浸水時の止水対策があるかは、管理会社や重要事項説明で確認できます。この観点はタワマンの水害リスクの記事で詳しく解説しています。

第三に、過去に何が起きた場所かを知ること。武蔵小杉の浸水は広く報道されましたが、同じメカニズムのリスクは全国の川沿い低地にあります。検討している場所の浸水履歴と、自治体の対策の進捗を確認する手順は別記事にまとめています。

よくある質問

武蔵小杉は今も水害に弱いのですか?
2019年の浸水を受けて、川崎市は排水樋管のゲート運用ルールの見直しや水位観測の強化などの対策を進めており、同じ状況が同じ被害につながるとは限りません。一方で、多摩川の水位が長時間高くなるような大雨では内水リスクそのものがなくなるわけではありません。「武蔵小杉だから危ない/安全」ではなく、物件単位で想定浸水深・建物の電気設備の位置・止水対策を確認するのが正確です。
タワーマンションの高層階なら水害の影響はありませんか?
浸水そのものは免れても、生活への影響は受けます。武蔵小杉の事例では、地下の電気設備の水没で建物全体が停電・断水し、高層階ほど階段での移動と給水の負担が大きくなりました。タワーマンションを検討するときは、電気設備・給水設備の設置階と浸水対策(止水板・防水扉など)を確認してください。
川崎市中原区で物件を探すとき、何を確認すべきですか?
(1)川崎市の洪水・内水ハザードマップで想定浸水深、(2)多摩川からの距離と土地の高さ、(3)マンションなら電気設備の設置階と止水対策、(4)2019年の浸水範囲に該当するか(市の検証資料・浸水実績)、(5)火災保険水災補償——の5点です。同じ中原区でも台地側と多摩川沿いの低地ではリスクが大きく異なるため、場所単位で確認してください。

参考情報