2023年7月秋田豪雨の記録|秋田市で約7,800戸が浸水した内水・外水の複合水害
この記事の要点
- 2023年7月14〜16日、停滞した梅雨前線の大雨で、アメダス秋田の72時間降水量は253.0mm(観測史上1位)。7月1ヶ月分の平年値(197.0mm)を3日で超え、日降水量188.5mmは1882年の統計開始以来1位
- 秋田市の浸水は床上4,676戸・床下3,130戸、浸水面積約530ha(2024年1月10日時点・秋田市まとめ)。JR秋田駅東口のバスターミナルや地下道まで冠水した
- 1時間雨量は最大20〜30mm程度。「猛烈な雨」でなくても、長時間の降雨で川の水位が上がると雨水の排水先が失われ、県庁所在地の中心部でも内水氾濫は起こる
2023年7月14日から16日にかけて、東北北部に停滞した梅雨前線の影響で秋田県は記録的な大雨となりました。アメダス秋田の72時間降水量は253.0mmと観測史上1位を更新し、7月1ヶ月分の平年値(197.0mm)をわずか3日で上回る雨に。秋田市では床上浸水4,676戸・床下浸水3,130戸(2024年1月10日時点・秋田市まとめ)、浸水面積約530haという、県庁所在地の中心市街地としては近年最大級の浸水被害が発生しました。
この水害の重要な特徴は、1時間あたりの雨量は最大20〜30mm程度だったことです。ゲリラ豪雨のような「猛烈な雨」ではないのに、なぜJR秋田駅の駅前まで水没したのか——。河川の越水(外水)と、川の水位上昇で排水できなくなる内水氾濫が複合したメカニズムを、秋田市の公表資料にもとづいて記録します。
どんな雨だったか:1時間20〜30mmが、3日間降りやまなかった
梅雨前線が東北北部に長時間停滞し、前線に向かって暖かく湿った空気が流れ込み続けました。秋田・仁別・岩見三内の各雨量観測所では、48時間・72時間・日降水量が軒並み観測史上1位を更新。アメダス秋田の日降水量188.5mm(7月15日)は、1882年の統計開始以来141年間で最大の値でした(それまでの1位は1937年の186.8mm)。
一方で、1時間あたりの雨量は最大20〜30mm程度にとどまりました。短時間の強雨で一気にあふれる千葉や東京の事例とは異なり、「強くはないが、止まない雨」が3日間続いて川と下水道の容量を静かに使い切っていくタイプの水害です。大雨のニュースで「時間100mm」のような数字が出ていなくても安心できないことを、この事例は示しています。
| 観測点 | 72時間降水量 | 備考 |
|---|---|---|
| アメダス秋田 | 253.0mm | 観測史上1位。7月平年値197.0mmを3日で超過。日降水量188.5mmは1882年の統計開始以来1位 |
| 仁別(秋田市) | 415.5mm | 観測史上1位(6・12・24・48時間降水量も1位) |
| 岩見三内(秋田市) | 313.0mm | 観測史上1位 |
被害の全体像:駅前も病院周辺も浸かった約7,800戸・約530ha
秋田市のまとめ(2024年1月10日時点)によると、浸水被害は床上浸水4,676戸・床下浸水3,130戸、浸水面積は約530haに及びました。JR秋田駅東口のバスターミナルが冠水し、明田地下道が水没。中通・南通・楢山といった駅西側の中心市街地、広面・東通・横森など駅東側の市街地、市南部の仁井田・大住地区まで、市街地の広い範囲が水に浸かりました。
秋田市の分析では、同じ市内でも地区によって浸水の原因が異なります。駅東側は太平川からの越水(外水氾濫)の影響が大きく、駅西側は旭川の水位上昇で雨水を排水できなくなった内水氾濫の影響が大きい、市南部は雄物川・猿田川の水位上昇に伴う内水の影響が大きい——という複合水害でした。
「川の水位が上がると、堤防を越えなくても市街地は浸水する」——旭川沿いで起きたこの現象は、2019年の令和元年東日本台風で武蔵小杉が浸水したメカニズム(排水先の喪失)と同じ構造です。内水氾濫の仕組み全般は解説記事にまとめています。
| エリア | 主な地区 | 浸水の主因 |
|---|---|---|
| JR秋田駅の東側 | 広面・東通・横森 | 太平川からの越水(外水氾濫)の影響が大 |
| JR秋田駅の西側 | 中通・南通・楢山ほか | 旭川の水位上昇による内水氾濫の影響が大 |
| 市南部 | 仁井田・大住 | 雄物川・猿田川の水位上昇による内水氾濫の影響が大 |
なぜ排水できなかったのか:計画降雨と「湛水型」の内水氾濫
秋田市の下水道(雨水)は、旧八橋処理区の合流地区で1時間51.2mm(10年に1回程度の大雨)、それ以外の地区で1時間43.0mm(5年に1回程度)の降雨を想定して計画されています。1時間20〜30mmの雨なら、本来は計画の範囲内のはずでした。
それでも浸水したのは、排水の出口である川の水位そのものが上がってしまったからです。雨水は最終的に旭川・太平川・雄物川へ流されますが、3日間の雨で川の水位が高止まりし、市街地の雨水が川へ出られなくなりました。気象庁の分類でいう「湛水型の内水氾濫」で、下水道の能力が正常でも防げないタイプです。あわせて、局地的に1時間61.5mmの強い雨が降った地区では、排水能力そのものを超える「氾濫型」の内水氾濫も発生しました。
「下水道が整備されているから安心」「時間雨量が計画内だから大丈夫」とは言えません。川沿いの低地では、長雨で川の水位が上がるだけで内水氾濫のリスクが高まります。大雨が長引くときは、雨の強さだけでなく近くの川の水位情報(川の防災情報)を確認してください。
秋田市で住まいを選ぶ人・住んでいる人への教訓
第一に、中心部・駅近の利便性と水害リスクは別物だということ。今回浸水した中通・南通は秋田駅徒歩圏の中心市街地で、病院や商業施設も集まる便利な低地です。「街の中心=安全」ではなく、秋田市が公表する洪水・内水ハザードマップと今回の浸水実績で、場所単位のリスクを確認してください。過去の浸水記録の調べ方は別記事で手順化しています。
第二に、復旧後の対策の進捗を見ること。秋田市は今回の水害を受けて検証報告を公表し、雨水管・ポンプ場の増強や流域治水の取り組みを進めています。「2023年に浸かった場所」のリスクが今どう変わりつつあるかは、市の下水道・治水関連の公表資料で追えます。
第三に、火災保険の水災補償。床上浸水4,676戸という規模は、それだけの世帯で保険の有無が生活再建の速度を分けたことを意味します。川沿い低地や過去の浸水エリアで水災補償を外す判断は慎重に。被災時の罹災証明書などの手続きも知っておくと動きが速くなります。
よくある質問
- 秋田市は水害に弱い地域なのですか?
- 市全体をひとくくりにはできません。秋田市の市街地は旭川・太平川・雄物川に囲まれた低地に発達しており、2023年7月の浸水も地区によって原因が異なりました(駅東側は太平川の越水、駅西側は旭川の水位上昇による内水など)。同じ市内でも台地側と川沿い低地でリスクは大きく違うため、市のハザードマップと2023年7月の浸水実績を場所単位で確認するのが正確です。
- 1時間20〜30mmの雨でなぜ7,800戸も浸水したのですか?
- 雨が3日間降り続き、排水先である川の水位が上がってしまったからです。市街地の雨水は最終的に旭川・太平川などへ排水されますが、川の水位が高いと雨水は行き場を失い、下水道の能力が計画どおりでも市街地にあふれます(湛水型の内水氾濫)。時間雨量の数字が小さくても、降り続く雨と川の水位次第で大きな浸水は起こります。
- 秋田駅周辺(中通・南通)で物件を探すときは何を確認すべきですか?
- (1)秋田市の洪水・内水ハザードマップで想定浸水深、(2)2023年7月に実際に浸水した範囲(市の検証報告・浸水実績)、(3)建物の1階の高さや半地下・地下設備の有無、(4)その後の雨水対策(ポンプ場・雨水管増強)の進捗、(5)火災保険の水災補償込みの保険料——の5点です。駅徒歩圏の便利な低地ほど、浸水実績の確認を省略しないことが重要です。
- 被害の数値はどこで確認できますか?
- 秋田市の「令和5年7月豪雨災害対応」ページと検証報告、秋田県の被害まとめが一次ソースです。本記事の浸水戸数(床上4,676戸・床下3,130戸)は秋田市の2024年1月10日時点の集計にもとづいており、その後更新があれば最新の公表値を優先してください。