老後の住まいは賃貸と持ち家どっち?70歳からの現実で考える

「老後、賃貸だと借りられなくなるのでは」「持ち家でも修繕費が払えるか不安」——住まいの賃貸か持ち家かという議論は、実は現役時代よりも70歳以降の暮らしを想像したときに本質が見えてきます。若いうちはどちらでも大差なく暮らせますが、収入が年金中心になり、健康リスクが高まる高齢期には、両者の弱点がはっきり表れるからです。

本記事では、高齢者が賃貸を借りにくいと言われる実態とそれを変えつつある制度、持ち家・賃貸それぞれの老後コスト、60歳からの住み替えの選択肢を整理します。制度の内容は2026年7月時点のものです。どちらが正解かを断定するのではなく、「どちらを選んでも詰まないための準備」まで含めて解説します。

高齢者は賃貸を借りにくい?実態と変わりつつある制度

高齢の単身者が賃貸住宅を借りにくいのは残念ながら事実です。貸主側の懸念は主に3つ——家賃滞納(収入が年金のみ)、孤独死とその後の残置物処理、認知機能低下によるトラブルです。国土交通省の調査でも、高齢者の入居に拒否感を持つ貸主が一定割合存在することが繰り返し示されています。年齢だけを理由に申込みを断られるケースは、70代以降は現実に起こり得ます。

ただし制度は変わりつつあります。住宅セーフティネット制度では、高齢者などの入居を拒まない「セーフティネット住宅」の登録が進んでおり、専用サイトで検索できます。さらに2025年10月に施行された改正法では、見守りなどの援助を行う「居住サポート住宅」の認定制度が始まり、残置物処理の不安を減らすモデル契約条項や終身建物賃貸借の活用も広がっています。貸主側の「貸さない理由」を制度で潰していく方向に進んでいるのです。

また、UR賃貸住宅は保証人不要・更新料なしで、年齢を理由に断られることがなく、高齢期の賃貸の有力な受け皿です。自治体の高齢者向け住宅相談窓口や居住支援協議会(全国の都道府県等に設置)も、物件探しを手伝ってくれます。「高齢=絶対に借りられない」ではなく、「選択肢が狭まるので早めに動く必要がある」が正確な理解です。

持ち家の老後コスト:「家賃ゼロ」ではない

持ち家の最大の強みは、ローン完済後の住居費が大きく下がることです。ただし「タダで住める」わけではありません。固定資産税・都市計画税、火災保険・地震保険、そして修繕費は生涯続きます。特に戸建ては、屋根・外壁の塗り替えや水回り設備の交換など、築30年を超えると百万円単位の修繕が現実になります。

マンションの場合は管理費・修繕積立金が毎月かかります。修繕積立金は築年数とともに値上げされるのが一般的で、国土交通省のガイドラインでも段階増額積立方式の物件では将来の引き上げが前提とされています。年金生活で月3〜4万円台の管理費等を払い続けられるかは、購入時から意識しておくべき点です。

老後の持ち家で最も危険なのは「修繕資金を準備しないまま家だけが古くなる」パターンです。修繕できない家は住み心地が悪化するだけでなく、売却額も下がり、住み替えの選択肢まで狭めます。完済後も月1〜2万円程度を「自宅の修繕積立」として別枠で貯め続けるのが現実的な防衛策です。

持ち家の老後にかかる主な費用の目安(概算・物件により大きく変動)
費目戸建てマンション
固定資産税・都市計画税年10〜15万円程度年10〜20万円程度
管理費・修繕積立金なし(自分で積立)月2〜4万円程度
大規模修繕(屋根・外壁等)10〜15年ごとに100〜200万円規模積立金から支出(不足時は一時金も)
火災保険・地震保険年数万円年数万円(専有部分)

賃貸の老後コスト:生涯続く家賃をどう見るか

賃貸の弱点はシンプルで、家賃が生涯続くことです。65歳から90歳までの25年間を考えると、家賃6万円でも総額は1,800万円、更新料や引越し費用を含めればさらに増えます。厚生年金の平均的な受給額から家賃を払うと、生活費の余裕は大きく削られます。

一方で、賃貸には「住居費を状況に合わせて下げられる」という持ち家にない柔軟性があります。子どもの独立後に小さい部屋へ、配偶者との死別後にさらにコンパクトに、と家賃をダウンサイズしていけば、総額は試算より抑えられます。持ち家の固定資産税や修繕費が「削れない固定費」であるのに対し、家賃は「調整できる固定費」です。

65〜90歳の25年間の家賃総額(家賃のみ・更新料等は含まず)
月額家賃年間25年間の総額
6万円72万円1,800万円
8万円96万円2,400万円
10万円120万円3,000万円

60歳からの選択肢:住み替え・リ・バース60・サ高住

60歳前後は住まいを再設計する最後の好機です。体力・判断力があり、収入もあるうちなら、売却・住み替え・借入のどの選択肢も現実的に検討できます。主な選択肢は次のとおりです。

自宅を売って賃貸として住み続ける「リースバック」は、まとまった現金が入る半面、売却価格が相場より安く、家賃が相場より高く設定されがちです。国民生活センターにも契約トラブルの相談が寄せられています。検討する場合は必ず通常売却との手取り比較を行い、その場で契約しないでください。

  • 住み替え(ダウンサイジング): 広い自宅を売却し、駅近マンションやコンパクトな住まいへ。売却益で住み替え費用と老後資金を確保する王道パターン
  • リバースモーゲージ/リ・バース60: 自宅を担保に借入し、毎月は利息のみ支払い、元金は死亡時に自宅売却等で一括返済する仕組み(リ・バース60は住宅金融支援機構の提携商品)。住み続けながら資金を得られるが、金利上昇・担保評価・長生きのリスクは要理解
  • サービス付き高齢者向け住宅(サ高住): 安否確認・生活相談が付いた賃貸住宅。自立〜軽介護度向け。月額は家賃+サービス費で通常賃貸より高め
  • UR・公営住宅・セーフティネット住宅: 保証人や年齢の壁が低い公的な受け皿。人気エリアは抽選・待機もあるため早めに情報収集を

「どちらでも詰まない」ための現役時代の準備

賃貸か持ち家かの二択に唯一の正解はありません。重要なのは、選んだ側の弱点を現役時代から埋めておくことです。持ち家派の弱点は修繕費と固定資産税という「削れない固定費」、賃貸派の弱点は「生涯続く家賃の原資」と「高齢期の入居ハードル」です。

持ち家派は、定年までのローン完済(または完済できる残高管理)と、月1〜2万円の修繕積立を続けること。賃貸派は、老後の家賃25年分に相当する資産形成を現役時代の投資・貯蓄計画に明示的に組み込み、元気なうちに終の住処となる賃貸(UR・サ高住等)へ住み替えておくことです。

どちらの道でも、まず「老後の住居費が年いくらかかるか」を数字にすることが出発点です。持ち家検討中の方は、当サイトのシミュレーターで返済だけでなく管理費・修繕・固定資産税を含めた実質負担を確認し、完済後に残る維持費を老後の生活設計に織り込んでください。数字にしてしまえば、賃貸との比較も感情論ではなく計画の問題になります。

よくある質問

70歳を過ぎると本当に賃貸は借りられませんか?
借りられなくなるわけではありませんが、選択肢は狭まります。年齢や単身であることを理由に断る貸主が一定数いる一方、UR賃貸住宅、セーフティネット住宅、居住支援法人の支援対象物件など、高齢者を受け入れる住まいは制度的に増えています。家賃債務保証会社の利用や見守りサービスの併用で貸主の不安を減らせるケースも多いため、体力のあるうちに早めに住み替え先を探し始めることが最大の対策です。
老後のために家は買っておくべきでしょうか?
「老後に家賃を払いたくない」というだけで購入を決めるのはおすすめしません。持ち家にも固定資産税・修繕費・マンションなら管理費等の削れない費用が生涯続き、立地が悪ければ売却も貸し出しも難しくなります。購入するなら、老後も住みやすく資産性のある立地を選ぶこと、定年までに完済できる計画にすること、修繕資金を積み立て続けることの3点を満たせるかで判断してください。満たせないなら、賃貸を続けながら家賃原資を資産形成するほうが合理的な場合もあります。
リバースモーゲージとリースバックはどう違いますか?
リバースモーゲージは自宅を担保にお金を借りる仕組みで、所有権は自分に残り、毎月は利息のみを支払って元金は死亡時に自宅の売却などで返済します。リースバックは自宅を売却して所有権を手放し、買主に家賃を払って住み続ける仕組みです。リースバックは売却価格が相場より低く家賃が高くなりがちで、トラブル相談も増えているため、検討時は通常売却・リバースモーゲージを含めた複数案の比較が不可欠です。
賃貸派は老後資金をいくら用意すればよいですか?
目安は「老後に想定する月額家賃×12ヶ月×25〜30年分」を、年金で賄えない生活費とは別枠で見積もることです。例えば月6万円の住まいなら25年1,800万円、月8万円なら2,400万円が家賃原資の目安になります。高齢期は家賃を下げる住み替えで総額を圧縮できるため、満額を現金で用意する必要はありませんが、計画に「生涯家賃」という項目を明示的に持つことが重要です。

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